英語教育発想の転換

―カードで遊んで英語大好き!― 難波悦子

1)B.B.メソッドとは?「出来るが先、知るは後」

B.B.メソッドは、「全体から個へ」「基本は遊んで学ぶ」「いい加減が好い加減」を謳ってきました。入門期から概ね英検3級レベルの64の文章(全体)を、ゲームで子ども達にそれと悟らせずに多量の反復練習をさせます。ゲームによるレッスンは子ども達の自発的な参加を促し、覚えなければならないというプレッシャーを与えません。音声、語彙、文法など「やさしいこと」から「難しいこと」へと段階を踏んで教えるのではなく、飽きさせずに反復練習させることがこのメソッドの特徴です。

言えても、言えても、なお繰り返す反復練習がもたらす効用は、単に基本構文を「型」として身に付けるだけではなく、「英語の語感(=英語の知識)」となって、説明はできないけれど「分かる」「出来る」という体験を子ども達はします。この体験が子ども達の自尊感情を育て、英語学習に対する一番の動機づけとなります。

2)使える英語を目ざした語句と構文

「B.B.カード」に使われている言語材料は、入門期であることを考慮して、子ども達のつまずきの原因を考慮して、語彙を慎重に厳選しています。また、本を読む、発話・作文が出来るなどの言語運用力を付けるのに不可欠な語句と構文を集めました。特に子ども達が、つまずきの原因となる機能語、中でも前置詞に焦点を当てています。前置詞は使用頻度が高く、その使われ方によって意味が幾通りもあるので、子ども達にとって大変に難しいものなのです。

英語を習いはじめの頃、瞳をキラキラさせて「英語大好き!」と言っていた子ども達が、いつまでも変わらず「英語大好き!」でいるためには、入門期に「何をどのように導入するか」が重要な鍵となります。

3)良質なインプットを多量にするには

第二言語習得に欠かせないのが「良質なインプットを多量にすること」といわれています。これから英語を学ぶ子ども達が良質なインプットを多量にするためには、まず「英語の語感(=英語の知識)」を身に付けるのが最良と思われます。これはアルファベットや単語が読めたり書けたり、単語を沢山知っているとか文法を知っているという、いわゆる「英語についての知識」とは違います。

今自分の持っている「英語の語感(=英語の知識)」を使って、「分かる」「出来る」という体験をした子ども達には自尊感情が芽生えます。「自尊感情こそが学力の根本である」というモスコビッチの言葉通り、子ども達は英語に興味関心を持ち、本も読むようになります。日常的に英語が使われていない日本の子ども達にとって、こうして、まずは本読み、そして多読につなげるのが、良質なインプットを多量にする近道のようです。Extensive Reading is the only way to language acquisition.とクラッシェンも主張しています。

4)習得の順序はみな違ってよい

B.B.メソッドでは「全体から個へ」という考えですから、子ども達が英語に触れる間口(音声、語彙、文法など全体)を最初から大きく広げています。こうして間口を広げることで、みんな同じゴールを目差すものの、それぞれ自分の興味のある部分から習得してゆきます。

従来の日本の英語教授法は、音声、語彙、文法など全てやさしいものから難しいものへ(個から全体へ)と積み上げ方式で「英語についての知識」を教えます。学習順序は先生、或いは教科書によって決められています。オールイングリッシュを含めいろいろな教授法が行われていますが、学習開始年齢に関係なく、その学習方法は概ねPPP方式(Presentation, Practice, Production)で、文法シラバスです。

近年、文部科学省主導のもとに、より「コミュニカティブなシラバス」にということで、概念/機能シラバス、トピック/テーマシラバス、状況シラバスなどいろいろと工夫されてきました。しかし、どれも文法項目を導入するための手段であり、本質的には文法シラバスです。結局、従来の教授法と大差ないように思います。

5)小学生から英語学習を始める意義は?

「小学生から英語学習を始める意義は?」と聞かれたら、私は迷わず、「後の発展的学習を容易にする土台を構築すること」と答えます。
文部科学省は小学校英語教育のねらいを「外国語を通じて、言語や文化について体験的に理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら、コミュニケーション能力の素地を養う」としています。皆さんはどのように考えられますか。

「B.B.メソッド」の第2言語習得における有効性についての研究論文のご紹介

当会の会員である泉瞳氏が、北海道大学大学院にて認知言語学を基盤とした使用依拠モデルの観点からB.B.カードによる英語指導の研究をされています。
泉氏が発表した研究論文を紹介します。

「使用依拠モデルに基づく第二言語指導の実証的研究:母語習得プロセスとの比較の観点から」

著者:泉 瞳

発行日:2021年3月25日

北海道大学学術成果コレクション HUSCAP(ハスカップ)

https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/80827

(HUSCUPのホームページ上にあるPDF見る/開くをクリックして頂くと閲覧可能です。)